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シェフインタビュー No.24

料理人は店舗の外に出ることで一層磨かれる(新橋亭代表取締役呉祥慶氏、中村シェフ、松澤シェフ)

まず最初に新橋亭の呉祥慶様にお話しを伺いました。

新橋亭は1946年に現在の代表取締役である呉祥慶氏の祖父呉宝祺氏が創業した中華料亭の老舗です。これまでの顧客には近代日本文学を代表する小説家の一人谷崎潤一郎(小説「美食倶楽部」を執筆)、鳩山一郎元首相などの著名人も多い名門中の名門中華料亭であり、現在は都内に3店舗出店しています。新橋新館、虎ノ門新橋亭(日本消防会館)、玉川新橋亭(玉川高島屋レストラン街)、その他に2店舗の惣菜店も出しています。

2007年に現代の名工に選ばれ、2015年には天皇陛下より「旭日双光章」も受章した田中喬氏が総料理長を務め、国産食材の比率を高めた安全かつ本格中華料理を食べることができます。清王朝時代に開始された満漢全席という最高級食材を使った宴会メニューを今でも提供し(毎年2月に開催)、高級中華を語るうえでは欠かせない名店です。

プライムシェフのお客様からも、本格中華が自宅で食べれると大変好評な新橋亭。出張料理を始めると決断された代表取締役の呉祥慶氏、現場を担当している中村シェフ、松澤シェフにそれぞれお話を伺いました。

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出張料理はお客様満足度と従業員満足の追求

編注:上記の写真は新橋にある新橋亭の店舗。伝統の重みを感じさせる立派な入口です。

ー出張料理をどのように位置付けていますか?
出張料理をどうしてやるのか、というところですが、社会的な背景としては少子高齢化という背景があります。その中で、在宅で本格的な料理を召し上がっていただけるというお客様満足度の追求が第一義的にあります。

次に従業員満足。スキルアップをしなければいけないという点においては、やはりうちに籠っていてはだめなんですね。やはり外販という部門で積極的に外に出て、調理人はそこでいかんなく自分の技を発揮することによってそのパフォーマンスがダイレクトに伝わるのが出張料理という機会だと思っています。

人から見られている、お客様を意識しながらできるということは人間的な成長があるわけです。コミュニケーション能力などいろいろ問われるものがでてきます。その集大成がケータリング、出張料理。

幸いうちの両名(中村、松澤両シェフ)は接客も対応した店舗におりましたので、会計もできる強者で、そういうキャリアのもとで今回対応をさせていただいてます。今後については他のスタッフも、自分のスキルアップを目指してやっていければとも思います。

店舗外での人材育成効果は大きい

えてして現場仕事は作ればいいに終始してしまいがちになりますが、自分達の給料の源泉はお客様あってのことなので、お客様が喜んで、なおかつ対価である支払をされて、自分達が生かされているということを再認識する場としてはうってつけだと思っております。業界としても将来性はあるが、人材教育という意味では、お客様が直接職人さんを育てていただける、そういう環境に尽きる。これは間違いないです。

担当している2人にもそういった話はしてます。ただし、どこまで現場の人間が実感を持てるか、ということについては自分の想像を超える部分があります。その点に関してはもう2人がお客様とお写真を撮ったりとか、いろいろと配慮をいただいたりとか一番本人達が実感している部分になります。今のところプラスアルファという意味では期待以上のものを得られているのではないでしょうか。

あとは慣れない環境の中でいかにやっていくかです。何でもそろっていると安易に仕事が進みがちなのですが、慣れない環境、いろいろな家庭の事情もある中ですと、後は自分のパフォーマンスと技量にかかってきます。現場的な感性、直感的な技量というものも加味される。それは貴重な経験になると思うのです。

店舗があるからこそ出張料理を使ってもらえる

ー出張料理のお客様がお店に来ることは狙ってるますか?
たまたまお店があって、出張料理をしているという意味合いが強いと思っています。お店への再来店はあくまでもご縁あれば。今はお店があるからその分信用してもらえ、呼んでもらえると考えています。衛生面、安全面はもちろん、お店から来ているからには下手なことができないという状況があるわけです。お客様への信頼につながります。

ですので、現状では在宅でお食事をされたいうニーズが来店につながるということはあまり考えてません。相乗効果はあるにせよ、お店があるから安心して家で召し上がってくださいよ、という見方をしてます。職人さんもお店の信頼を背負っていくので、プライドも持って行けるというのは一つの強みだと思います。

収支的なものに関しての考え方ですが、ここもやはりお店ありきだと考えています。お店が料理人の生活と雇用を提供している上で出張シェフサービスを動かします。店舗で毎日お料理を作りお客様に提供している現役の料理人が家まで来てくれるからこそ価値がある、という考え方です。器材をお持ちし、移動のインフラなどもお店を中心に備えた上でのパフォーマンスになります。

最低料金の設定が可能なので、それに合わせて料理人もコースを作ることができますので、収支割れすることはお陰様でありません。むしろその分経験値を詰めるというプラスがあるという考え方です。最低予算がなくなると、アラカルトという構成になります。来店されたお客様であればそれでOKなのですが、出張料理でそれをやってしまうとメニューが組めません。お客様の家庭料理の中でできる料理を選択させていただいて、コストの見合う食材を提供させてもらっていますので。

店舗内への刺激にも大きな期待

実直な話、2人は元々こういったことに積極的な人間でしたから。元々持っているものに対して十分対応していると思います。これから先いろいろな例えばトラブルが発生することがどうしてもあでしょう。そのミスをどうカバーしていくのか、もちろんない方がいいんですが、あった場合、スキルアップにつながるというところでは、2人に関してはまだまだ伸びしろがあるわけで、経験していくといろんなケースに対応ができる、マルチフルな感じになると思います。

逆にこの2人以外の店舗にいるシェフが刺激を受けることが多い。店舗の中でしかやっていない人もいます。そういう人がじゃぁ明日は自分かな、なんて意識づけを持ってもらえれば。料理人としてどこでパフォーマンスを発揮できるかというのは、本人の人間の幅ですから。元々技術は持っているので、機会が増えて行けば、2人から発信をして、みんながいい経験、体験を積めるという状況になっていく、という前向きな感じですかね。えてして職人社会は家に籠りがちなので、少し開放的な形になっていけばと。

本人たちの経験もそうだし、持ち帰ったことによって店舗の中に経験を持ち帰ったり刺激を与えるということは本人たちからも波及していってほしいと考えています。

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呉祥慶社長から高い評価を得て今回の出張料理を担当されている中村シェフと松澤シェフに、その後お話を伺いました。

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物づくりへの興味から料理の世界へ(中村シェフ)

編注:新橋亭店舗内ロビーでお話を伺い、気さくに応じていただきました。左が中村シェフ、右が松澤シェフ。

小さい頃から物を作ったりするのは興味があって、学校の教科で言うと技術家庭とか図画工作が好きだったので、ざっくりと何か作れる仕事につけたらいいなと考えてました。作るのが好きだったんです。木を持ったりとか。料理という選択肢はその時はまだなかったですが、職人的な感じになれればいいかなというのはどこかにあって、就職どうするか、という時に、友達から料理やらない?と言われて、作る系で料理も悪くないな、と思いました。

高校卒業して1年専門学校通って、そこから新橋亭にお世話になってます。実際は新橋亭からは1回外に出てます。でも、それは師匠からの指示です。そしてその後再度戻ってこいということで、戻ってきました。行ったのは別の中華料理屋です。違う中華を勉強してこいという意図ですね。行ったのは広東料理のお店です(編注:新橋亭は北京料理)。食材や料理の仕方が違ったりとか、同じ名前のメニューでも作り方が違ったりといったことがありました。短い期間でしたけど、いい経験になりました。

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仲間や上司に支えられてきた料理人としての人生

編注:特別に厨房の撮影の許可をいただきました。

料理人の仕事は拘束時間が長い仕事ではあるので、体力は必要です。ただ、そんなにひどいといったところはなくて、もちろん若い頃しんどいタイミングはいろいろとありましたが、何とかだましだましやってたら、ここまで来ました。仲間や上司に支えられたということもあります。職場の雰囲気はいいですね。さすがに忙しい時は殺伐とはなりますが、それは仕事ですからね。

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経験を活かし、店舗内にもいい影響を及ぼしていきたい

出張料理の話は呉社長からありました。元々二人とも2年くらい前に浅草のデパ地下に出ていた新橋亭の惣菜のお店の経験があるんです。惣菜は全部現場で作ってましたが、それに加えて接客もしなくてはいけませんでした。今回出張料理ということで、その接客の経験を踏まえての選抜になります。お店の中にいても接客の研修などはありますが、やはり現場では想定外のことがありますから。そういったことにも対応ができるのは、実際の経験を積んでいることが重要、ということで選ばれたと思いますね。

最初に聞いた時の感想は、いい経験になるな、というのと、忙しいお店なので、回るかな、という不安、両方ありました。実際出張料理に行っても、その後はお店に帰って仕事をします。それが、出張料理のお客様をせかすようなことにはならないように気を付けてやっています。そういう意味でのタイムマネジメントは大事ですね。ただ、お客様の食べるスピードには合わせています。1人で行きますから、お皿を下げたり、料理を出している時にお客さんが食べるのを見ておいて、様子をつかむようにしてます。

出張料理から帰ってきたら、職場のみんなには雑談的に話はしますね。どうだった?という声はかけてもらうので、雰囲気とか、どんな感じで喜んでもらえたのかを話します。お客さんからの反応はいいので、下がることないよう頑張りたいと思います。

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お店では聞こえてこない、食べた瞬間の声が聞こえる出張料理(松澤シェフ)

小学校の頃は水泳と空手をやってました。中学からバスケを高2までやりました。高2の途中からでいきなりアメフトをやり始めました。部員が足りなかったんですね。高校卒業後に、友達から一緒に料理人やらないか、という誘いがあって、専門学校に行き、卒業してから新橋亭に入りました。専門学校は中村シェフと同じところです。時期は重なってはいないですけど。

料理自体は小さい頃から好きで、卵焼き、目玉焼きなんかは作ってはいたので、誘われた時にやってみようかなと思いました。

お店の伝統を感じるところとしては、お客さんの入り方でしょうか。ランチで入ってくるお客さんの量とかですね。

出張料理の話を聞いた時、、、不安はありました。ただ、そこから名前が広がるということもありますし、マイナスはないのかなとは感じています。目の前で作ったものを食べてもらうわけで、食べた人によって、どう感じるかはわからない。初めての人なので、緊張しますね。お店とは火加減や作る過程も少し変えないといけないので。その分おいしいと言ってもらえた時はうれしいです。お店では聞こえてこない、食べた瞬間の声ですね。

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訪問先での接客は細心の注意をもって実施

出張料理の場合、お客様と面と向かってお料理をすることになります。「俺は料理だけ作ってるんだ」、という感じは厳しいかもしれません。そこは柔軟に話をしたり、笑顔も必要になってきます。よそ様のお宅に伺って初めてのところでやるわけなので、いろいろと予想外のこともありますが、そこは柔軟に対応して、後は、人となりも見られてると思いますので、この人だったら任せても大丈夫かなと思ってもらえるように、そこはデパ地下での接客していた時の経験も活かしつつやってます。

当たり前ではありますが、伺った際と帰る時の挨拶はしっかり、というのも忘れてはいけません。そして主役はあくまでお客様ですから、前面に出過ぎないという心掛けもしてます。もちろんお店の名前を背負って行くわけですから、その責任感をもってサービスにあたってます。