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シェフインタビュー No.18

ロブションでの仕事はホールスタッフから。心震えるエピソードを披露してくれた出張料理人の日吉瑞己シェフ

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お料理に興味を持ったのはいつ頃ですか?

料理には昔から興味がありました。飲食店の食べ歩きが好きだったんです。いろんなお店に行っては、この料理はどうしておいしいんだろうか、ということを考えるのが好きでした。作れないけど、こうして作ったらおいしいんだろうな・・・ということを食べ歩きをしながら考え続けていました。

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本格的にお料理の道に入ったきっかけはありますか?

リーマンショックショックが来てからです。当時は普通にサラリーマンやっていましたが、やめるタイミングが来て、好きなことを仕事にしたいなと考えたんです。その時に、もし自分が料理をつくれたら、絶対に良いお店を作れるだろうな、という変な自信があって、年齢が30歳だったので、ゼロからやるんだったら今だろうと思って料理の世界に飛び込むことにしました。

どちらかと言えば私は、料理そのものが好きというよりは、考えることが好きなのかもしれませんね。こうやって作ったらおいしいだろうな、と試してやってみるのはすごく好きです。試したものが人から評価を受けられればうれしいといった感覚ですね。研究したり追求したりするのが好きなタイプ。料理人というよりは研究者的な感覚なのかもしれません。

料理を作る時も科学的に考えることが多いです。最近の最先端の料理は分子調理と呼ばれ、科学的に料理をとらえて作ります。考え方はそちらに近いと思います。スペインのエルブジなんかです。トマトの果汁にアルギン酸ナトリウムを混ぜて、塩化カルシウムを溶かした水の中に落とすといくらみたいになる。でも味はトマトというような調理方法です。そこまではやらないけど、科学的にとらえるという意味では参考になりますね。

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お料理のスキルはどうやって磨いたんですか?

30歳から料理の道に入ったんですが、その時は求人広告を見て、出ていたお店の食べログの評価を調べ、一番いいところに入りました。そこがたまたまフレンチだったんです。最初の印象はとにかくおいしかったの一言です。25歳のシェフがやっていたお店だったのですが、彼の作る料理にひたすら感動してしまいました。いろいろ食べ歩いたはずだったのに・・・これがフレンチなんだと初めて気づかされました。そのシェフに基礎的なことを学ぎました。そのお店はシェフが交代になったこともあり1年ほどで辞め、新しいところを探して見つけたのが、ロブションでした。普通は1年や2年やった人間が入れるようなところではないところではあります。

ロブションはカフェの方で人を募集をしていました。アルバイトのサービススタッフです。キッチンの募集はしていない。サービスも少しは勉強したかったので、いいチャンスだと思ってサービスで入って、シェフに毎日毎日アプローチをしたんです。忙しそうなときに手伝いましょうか、と打診をするわけです。ずっと断られていましたが、半年経って、あることが起こりました

お店が忙しくて、休みが取れない状態でしたので、耐えかねたキッチンのスタッフが2名夜逃げし、次の日から来なくなったんです。そもそも人がいないのに、2人も同時にいなくなってしまっては、お店が回るはずもない。どうするどうする...という時に、そういえばぶつぶつ言うやつがいたな(笑)、ということで、声掛けしてもらいました。入れば絶対チャンスがあると思っていたんです。そもそもサービスも少しやっておきたかったというのもありましたけど。

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ロブションで料理のスキルを伸ばすチャンスを得たんですね。

それから厨房で働くようになりました。ロブションの厨房は厳しい場所でしたね。料理のレベルが高いんです。自分がこれまで教わっていたことではた太刀打ちできず、一から学び直さなくてはなりませんでした。でも相当勉強になりましたよ。ロブションの料理人達は感覚で物を言わないんです。何か一つ新しい仕事を任せられて、やると、だいたい失敗するのですが怒られながらも、それではなぜうまくいかないか、ということをきちんと深く教えてくれるんです。

例えば、肉を表面を焼いて色をつける、という仕事があります。240度の鉄板でじゅーって焼くんです。途中で、どれくらい焼けたかなって見たくなるので、見ようとすると怒られます(笑)。お前絶対焼けてないから触るな。触っていたら色なんてつかないぞ、と。鉄板とお肉が密着することで焼き色がつく。そこを1回離してしまうと、肉から水分が出てしまいい表面の温度が下がったり、肉から出た肉汁に邪魔されて焼き色が付きにくくなる。肉を同時に2個焼いて、触らないのと触るのを比べると、全然色の付き具合が異なる。そういったことを逐一、理由まで教えてくれるんです。そうやって教わると理解度が全く異なる。焼き物、サラダなど料理全部においてセオリー、ルールがあって、それには理由があって、深く知ることができました。

伝え方は口頭です。メモも取れますが、メモばっかり取ってると怒られます。情報は点で教えられます。ばらばらです。知識がバラバラな状態で入ってくるので、最初は使いこなせません。でもそれがある程度の知識まで蓄積されると、点同士がつながってくる。あの知識はここでも使えるな、と。そうなってくるとレベルが上がってくるんです。マニュアルのようなものにはなってはいません。そうなっていたらいいなって思って作ったのが今の自分の料理教室ですね。深い理由のところまでわかって料理をしている料理人たちと働くことができた、というのがラッキーでした。

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料理教室はどんなコンセプトでやっているのですか?

ロブションで働いている時から出張料理をしていました。独立した時のためにお客さんを獲得したいと思っていたからです。その後、お店で得られることがなくなったので、出張料理と料理教室をやるようになりました。料理教室のコンセプトは、『きちんと料理がうまくなる料理教室(笑)』です。レシピばかり増えるけど、肝心の料理がちっとも上手くならない料理教室は違うと思っています。対象はもちろん初心者の方でもいいのですが、理想は仕事で料理をしたいような人をイメージしています。料理を使って活躍していきたい人。ロブションで学んだことを伝えたいという想いです。自分自身が脱サラ後の修行に苦労しているので、似たような境遇の人を助けたいんです。プロとして料理人の経験はないけど、料理が好きで好きで仕方なくて、仕事にしたいと考えている人は結構いると思います。でも、そういった人達は経験がないために、自信がない人が多いのです。でも、作った料理を目の肥えた人たちに評価されると、それはすごく自信になるわけです。だから私がやっているのは、自信をつけるための料理教室です。ただ単に料理を教わるだけでなく、参加者が自分の料理を1品持ってきて、みんなでどこがいい、どうしたら良くなるなどを議論し合います。その結果みんなからおいしいね、と言われるようになると、ものすごい自信になります。それがプロとして1人でもやっていけるようなメンタル形成に役立ちます。そんな料理教室です。自信さえあれば、自分でいくらだって勉強できるし、レシピは世の中にたくさんある。厨房に大事にしまわれていて、世の中に出ていない調理技術の事なら私が教えることができますから。

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将来的にお店を持つ考えはあるんでしょうか?

以前は考えていたんですが、今は全くやろうと思わないです。方向転換をしました。お店の中で作業自体はやはりそこまで好きではないんですね。お店の作業はすごく単純な作業が多いし、お店を持つと、毎日同じところにいることになります。1年間同じ厨房にいるのがあまり好きではないんですね。いろいろなところでいろんな人のニーズにこたえて、いろいろなものを作るのが好きなんだということが、やって初めてわかりました。人に教えるのも好きだから料理教室が合っているのだと思います。今一緒に出張料理・ケータリングをやっているユニットメンバーはその点での考え方が一致しています。

お店を持たずに活動する人たちは増えてきていると思いますが、実は昔からいたのかもしれません。料理を仕事にしたい人に聞くと、口をそろえてお店をやりたいと言うんですが、よく聞くとお店にはあまり向いていない人もいます。でもどうしてお店をやりたいと思うのかというと、それ以外の選択肢を知らないことが多い。料理のコーディネートや飲食店を訪問して、飲食店のコンサル、出張料理もそうで、料理への関わり方にはたくさんあるんです。栄養を考える人もいる。企業の中で商品開発をする人達もいる。ものすごくたくさんあるけど、どうしてもみんなお店になってしまう。僕自身も知りませんでした。体を動かしてみてから気づくこともありますし。好きでないことを外していく方が人間の能力は発揮されやすいと思うんです。面白いと思うことの方が研究力を発揮できるし、人の役に立てる。そっちの方がスキルを発揮できますよね。

そういう意味では、料理への好きさ、という意味ではロブションにいる人たちにはかなわなかった、というのもあります。ロブションで働いている人たちは、どうしてそんな好きなの?というくらいに料理好きでした。ドン引きしたのは、セルバチコという葉っぱがあるのですが、ピリピリ辛い葉っぱなんです。小さいと綺麗な形、大きいと不細工。たまたまそのセルバチコの大きなものが入荷された時に、同僚の1人が自分の家に持って帰ろうとしていました。家で料理しようとしていたんです。店であれだけ散々料理をしているのに、持って帰ってまでしてまだ料理をしたい。休みの日も全部料理に使っている人たち。マニアですね。これはかなわないと思いました(笑)

インタビュアーから

ロブションでのエピソードには心震えるものがありますね。いつくるかわからないチャンスのために、自らを制していくのは並大抵のことではありません。料理業界で働くことを考えていなくても日吉さんのお料理や考え方に触れる機会は貴重なものになるのではないでしょうか。

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PROFILE

日吉瑞己
「圧倒的に美しい」をコンセプトとしたアートスタイルケータリングチーム「NOTABLE」代表、総合プロデューサー。

美術コーディネーターに高田康史氏を迎え、美しさと旨さの両立を実現。レストランさながらのスペシャリテをコース仕立てでご提供します。

ワインはシニアソムリエ坂上浩二氏によって、各料理に合わせて上質なワインをセレクト。 ここでしか味わえない格別なワインマリアージュをお楽しみいただけます。